きたぞポケモン工芸展!(再)
1年半ぶり2回目のポケモン工芸展です。前回参戦した金沢・国立工芸館での工芸展から時間も経ち、"そろそろ再会の頃合いだな…"と直感したので少ない有給を使って田舎からはるばる金曜の東京に降り立ちました。
麻布台ヒルズギャラリーにて2024/11/1(金)から2025/2/2(日)まで開催中の東京巡回展。www.azabudai-hills.com
私が行ったのは12/6(金)のお昼過ぎでした。さすが東京、平日でも人がいます。まあでも作品鑑賞に支障をきたすほどの人混みでもなかったですし、何より「隣の見知らぬ人から漏れ出た言葉から新たな気付きを得ることができる」のが現地鑑賞の醍醐味なので、良いタイミングで見られたかなって思います。
前置きはこのくらいに、さっそく。
ポケモン工芸展の世界へ レッツ ゴー!
お久しぶりです。
お変わりなく凛々しいお姿をしておられるブイズたち。金沢と同様に見に来た人々を真っ先に出迎えてくれた彼ら、ポケモン工芸展のコンセプトを示す導入としてあまりにも適格。実物は写真の10倍インパクトあります。
さて、金沢に展示されていた作品については以前の記事で紹介済なのでここでは(ほぼ)割愛します。この記事では東京会場の全体の様子や新作について述べていきます。
(↓金沢開催時の感想記事です。よろしければこちらもどうぞ。)
吉田泰一郎『ミュウツー』
ブイズの先には今回の目玉作品がいきなり登場。
東京会場で初お披露目された新作のひとつ、先程のブイズ像の作者・吉田泰一郎氏による『ミュウツー』。下から煽るように照らすライトが映す威圧的な影が美しい。
別アングル。 三方を壁に囲まれ、他の展示と隔絶された狭い空間で人の視線を受ける姿はまさにラボで研究対象として監視される姿そのもの。
隣にいた人が「手術してるミュウツー」って言ってたのがツボでした。
ところで、ミュウツーといえばほとんどの媒体で皮膚がツルツルに描写されているポケモン。ブースターのモフモフ毛やシャワーズの鱗のような皮膚まで精巧に作り上げた吉田氏ですが、ミュウツーにおいてはツルツル……ではなくむしろ遠巻きに見ると火傷痕のような生々しささえ感じさせる凹凸のある皮膚に仕上げています。
どうなっているのか、近くで見てみよう。
細かいパーツが重なった表層が確認できますが、よく見てみるとそれぞれのパーツがポケモンのシルエットになっていることがわかります。写真だと頭部側面の正面向きジュラルドンが見つけやすいかな(ジュラルドンの正面シルエットにわかりやすさを感じることあるんだ)。
ミュウツーの皮膚に浮かび上がる様々なポケモン。即座に思い浮かぶのはやっぱりミュウの「へんしん」。全てのポケモンの遺伝子をもつとされ、様々なポケモンに自由自在に変身するミュウ。そんな無限の可能性をもつ遺伝子も人間の手による改造の過程で変身の能力を失い、戦闘特化の生物兵器「ミュウツー」に成り果てた。皮膚に浮かび上がるポケモンたちのシルエットは失った変身の不完全な発現のようで、ミュウツーの人間に対する本能的な”まさしく遺伝子レベル”の抵抗のように思えてきます。それが生々しさ・痛々しさを伴った姿として出力されたように見えてしまうのは、どうにも遣る瀬無く……。
東京会場のようす
金沢の工芸展では展示スペースは複数の部屋に渡り、なかには一つの部屋をまるまる使って一つの作品を配置する超豪華仕様があったりもしましたが、ここ麻布台ヒルズギャラリーの展示スペースはでっかい一部屋をパーテーションで緩く区切った形。「1,すがた」「2,ものがたり」「3,くらし」の3つのテーマに沿った作品群を順に巡る構成は以前の工芸展と同じながら、パーテーションの隙間から別の展示がちらと見えたり、この先にどんな作品が待っているのか目線を上げればすぐに見えてくる配置で、本来個々独立しているはずの作品同士に連続性が感じられます。導線もわかりやすい。
故に!
こんな感じで『ピカチュウの森』と『Vessel-TSURARA』が一つの空間に同居するところも見られます!ライトを受けて輝く黄金色の森と白銀の氷のコントラストが美しい。
『ピカチュウの森』は作品の中に自ら入ることで楽しむ体験型アート的側面をもった作品。対して『Vessel-TSURARA』は、金沢においては一部屋まるごと使った展示で、”つらら”の間を縫って歩く体験ができたのですが、この会場ではスペースの都合かそれは叶わず。作品配置を考えた方は両作品に共通する「体験」に思いを馳せたんじゃないか、って思わんこともないですが、東京会場で意識される「個々のフォーカスよりもそれぞれの連続性を」という印象をみれば同じ画角に収まる配置が生み出す化学反応に期待したのかもなと思え、納得感があります。
話を戻して東京会場。『Vessel-TSURARA』側から撮影。画像右奥の着物が見える方向が順路だが、中央奥にもわずかな隙間から何かが見える!これは!!
『無題』くん!こんなところにいたんだね!
『無題』といえば技「かげうち」をモチーフにした作品。金沢では真っ暗な部屋にぬるりと聳え立つミステリアスな姿を見せてくれましたが、ここでは明るい部屋にひとり。金沢を踏まえて君を見るとなんというか、幽霊の正体見たり!って感じかも。
この前まで得体の知れないものだったのに、明かりの中に引き摺り出されると途端に仲良くなれる気がしてきます。漆の黒光りが光の中でより美しく輝いてかっこいい!横から見るとそんな形してたんだ!下のほうちょっと窪んでるんだね!
パーテーションをセンターに空間の境界を撮影。こうしてみると『無題』のほうはかなり照明が白い。黒が一番映える白に照らされて『無題』くんもうれしそう。
というか『無題』のほう、全然人がいない。先に上げた画像からわかるようにこの作品は順路から外れた袋小路に配置されているので、入場者数に比してこっちに行く人がほんとに少ない。人いなさ過ぎていろんな角度からじっくり写真が撮れたのはよかったけどさすがにこれ見ないの勿体なさすぎる!これだけ「他作品とのつながり」が意識される中で他から隔絶されたこの配置ってそれだけで計り知れないほどの価値があるのに。
でも、誰にも見られず誰とも関わらずしずかに佇み影から世界を見守るその姿はやぶれたせかいのギラティナのようで、そっとしておけるならそっとしておいてあげたいなって、そうも思っちゃうんですよね。
桑田卓郎『タイル(ピカチュウ)』ほか
金沢で見たときよりカップが増えている……?ピカチュウ柄のかわいいカップに加え、東京会場では後ろのピカチュウ柄タイルが仲間入りしたようです。これまでただ「カップが並んでる」にとどまっていた展示がタイルの登場により全体としてのまとまりを得て、ひとつの世界に集約された感があります。
そういえば、金沢で初めてこれを見たとき「ポケセンでレプリカなりなんなりがグッズ化されないかなあ」って思ってましたが、なんとこのカップたち、モノホンが東京巡回展開催中に抽選販売されていました(現在応募期間終了)。私はお小遣いの都合で見送ってしまいましたが多分何年後かに「応募するだけしとけばよかった!!!」ってめっちゃ後悔してると思います。
植葉香澄『蔦唐草文ジュペッタ』『蒼炎文ヒトモシ』
かわいいゴースト2匹が東京会場でお披露目。ジュペッタのほうは「蔦唐草(つたからくさ)文」(名前のイッシュ味が強い!?)、ヒトモシのほうは「蒼炎(そうえん)文」(イメージぴったり!)の豪華な意匠。ずっしりとした重みも感じられる像ですが、私はジュペッタのバランスが気になって。原作どおりのシルエット・頭のおっきいフォルムで、それでいてしっかり二足で立っている。どうバランスをとっているんだろう、倒れないんだろうかって心配になってしまって。横から見てみました。
しっぽ!!!
今まで私がほとんど意識したことがなかったジュペッタのしっぽ部分を用いて、足としっぽの3点で器用にバランスをとっている!マッシブなしっぽ。まわり込むことで見える作家の苦心と発想がすごく楽しい。
コラボカフェ概念・喫茶ポケモン工芸展
今回の工芸展、なんと見るだけじゃなく食べることもできる!麻布台ヒルズギャラリーカフェでは巡回展開催期間中ポケモン工芸展とのコラボメニューが販売中!さすが東京、やることが洒落ている。
店内BGMもポケモン仕様で、初代〜4世代のBGMからピックアップされた何曲かがループしていました。私が店内に入ったときはちょうどRSEの「美術館」が流れていて、ちゃんとしてるなあって、いたく感心したものです。
めっちゃ黒ゴマ。ホウオウとルギアが描かれている紙みたいなやつ、食べられるやつなのかいっつもわかんなくて困ってしまいがち。
クロックムッシュ食べ慣れなさ過ぎてあわあわしながらフォークでつついてたの恥ずかしい。調べたらクロックムッシュは素手で食べるものって出てきたんですが正気ですか。
コラボメニューを注文するともらえる特製ランチョンマット。A3サイズ。プラ製。こういうイベントでもらえるノベルティにしては割としっかりしておりクオリティの高さにびっくり。でかいので、これを持ち帰るためのバッグを用意をしておかないと大変なことになります。
おわりに
東京巡回展の記事はこれにておしまい。今回は新作の紹介が主になりましたが、既存作品も会場ごとに、見るたびに違う味わいを感じられるのでもう行った!って方もぜひ2回3回と行ってみてほしいです。
東京の巡回展は前期と後期に分かれており、私が行った前期展示は12月25日まで。26日以降は後期展示となり展示替えが行われるようです。公式がリピート推奨ムーブをしている!これは行くしかない!
東京は無理!というそこのあなた!ポケモン工芸展は今後愛知、青森、長崎へ巡回する予定とのこと。行けそうなとこに行って応援しよう!