こちらはポケモン工芸展感想記事後編になります。前編はこちらから。
【前編】ポケモン工芸展に行って饒舌になるオタク - まぬけさいぼう
ではでは早速、2.ものがたりの展示室に入ってみましょう!
これTwitterで見て気になってたやつ!PokemonEvolutionsに負けず劣らずな彫りの深さのダンデさん!
この作品は1954年生まれの作者さん(今69歳!?)が初めてポケモン(剣盾)をプレイし、そのときの体験を切り取って作品にしたもの。つまり形態は全く違えど、ゲームの初見実況動画とやってることは同じということですね。そう考えると作品が一気に身近になるかもしれない。
それにしても70歳で初ポケモン…!生まれたときからポケモンと一緒だった私のような若造には想像もつかないし絶対に味わえない体験!羨ましい!
(70歳も悪いリーグスタッフとかくれんぼしたんだよな…と思うとなぜだかごめんなさいって気持ちになる。罪深いぞゲーフリ!)
作品は3つ。ガラルの冒険から「ハロンタウン」「ワイルドエリア」「シュートシティ」がそれぞれフィーチャーされています。どの角度から見ても様々な表情のポケモンが顔を出してくれて見応えバツグン!以下私のお気に入りです。
クスネ、こんなに妖艶だったのか…。
「え、私??」な表情のルンパッパ。
タワートップでの威厳はどこへやら、ちっちゃく縮こまったムゲンダイナ。かわいい。絶対カレーで手懐けられてるよこの子。
ドテッコツなのよくないですか??
これ殿堂入り時点の手持ちだと思うんですけど、別に作者さんに交換相手がいなくてローブシンにできなかったとかそういうやつじゃないんです多分。そもそも作者さんの頭に通信進化という概念がなかった。これポケモン初プレイあるあるじゃないですか?今だとみんなすぐググっちゃうからそんなこともないのかな。でもこの感覚が作品を介して私達に伝わるのすごく心がくすぐったくなる。健康によい。
(池本一三『冒険のはじまり』『湖のほとりで』『殿堂入り』)
きものだ!
私着物のことあんまり詳しくないんですが、これ実際に着てみたらどんな感じになるんだろう。深い藍にアローラのポケモンたち。暑さと涼しさを一度に感じる、くらしに寄り添うデザイン。
暑い夏の夜、これを着てお祭りに出かけたら楽しいだろうなあ。キタカミの里でこれ着させてくれ!
あと言いたいこと、この作品がここで登場した意味を私はちゃんと考えるべきだと思うんです。実はこの先、3.くらしというテーマの展示があり、この作品にはそちらのテーマの方が適しているのでは?という気がするのです。それでも事実2.ものがたりの展示に含まれている。何故でしょう。
思考の起点となるのは『島ツナギ』という作品名。そして作品にデザインされているアローラのポケモンたち。アローラの4つの島を繋ぐ…。なんかこう聞くと島巡りの大冒険が頭の中にスッと浮かんできます。SM主人公たちの島巡りじゃなくてもいい。クチナシさんからニャースをもらって島巡りに出た子でも、なんなら私の知らないアローラの子でもいい。誰かの島巡りの記憶がこの着物の中に吹き込まれているのかも。そう考えるとものがたりがはっきりと見えてきますね。
(城間栄市『琉球藍型着物「島ツナギ」』)
ちっちゃい!
このアーマーガアのやつ、ポスターに出てた写真だと大迫力!って感じだったけどこれはきっと世界一小さなココガラとアーマーガアよ!
この作品、ちっちゃくて緻密というだけではない!なんとココガラ⇔アーマーガアの変形が可能なのだ!どうやら写真真ん中のやつは変形途中らしい。戦隊ヒーローの変身、ロボットの変形…男の子心がくすぐられる!
そして進化の捉え方、前編で紹介したトランセル・バタフリーはある体を捨てて別のものに生まれ変わるような描写で驚いたが、ココガラ・アーマーガアに関しては一つの体で完結させている。(アオガラスを抜かしているとはいえ)まさしくポケモン的な「進化」であり、モチーフと表現がビンビンに共鳴し合っている。ただ退化も可能であると考えると途端にポケモン感がなくなりますね。その感覚もおもしろい。
それにしても、デフォルメの効いたココガラから細かなデザインのアーマーガアへ、進化ラインとはいえデザインの性質が異なる2匹を一つの作品に同居させる力、恐ろしい。
(坪島悠貴『可変金物ココガラ/アーマーガア』)
作品名「電光投擲捕獲箱」だそうですよ。カッコよすぎ。
四角いモンスターボール。箱。私達の知るモンスターボールは丸いけど、性質としては確かに箱。手持ちがいっぱいのときにボールが転送される先はボックス。箱。ポケモンは箱に収まっている。じゃあ私の相棒も箱入り娘(?)
写真じゃわかりづらいけど箱にはまさしく"電光"な模様が。さながらスーパーコンピュータ。中に入れられたポケモンは生物としてではなくただ電子的情報としてのみ認識されるのだろうか。でも現代のモンボって確かに高性能コンピュータだよなあ。妨害電波でボールの機能を封じるあんな人やこんな人もいたし。あれが200円なのすごすぎでしょ。シルフカンパニー赤字にならないの?
というわけで、ポケモンという作品の象徴・モンスターボールって一体なんなんだ?という感覚でクラクラしちゃう作品です。
(池田晃将『電光投擲捕獲箱』)
前のお客さんの顔がちょっと写ってたのでぼかしてます。
続いて、中に入ってみるタイプの作品です。
この黄色いの、なんだと思いますか?近づいて見てみましょう。
全部ピカチュウ!
つまりこの作品、中に入ればピカチュウに囲まれてる感覚に!
…というわけでもなく、相当寄らないとピカチュウだって認識できないし、遠くにあるやつはぼやけて見えて、ただただ無限に広がる黄色い世界に置き去りにされたような感覚がします。秋のイチョウ並木。
それでもこの黄色が全部ピカチュウだというのは事実!私達に認識できなくてもピカチュウはそこにいる!不思議な感覚だ。
(須藤玲子『ピカチュウの森』)
今気付いた!この作品の英題"Pikachu's Adventures in a forest"だ!ピカチュウがいっぱいいて森みたい!じゃなくてこれはピカチュウの森での冒険をそのまま切り取った作品なんだ。つまり私に見えたのは縦横無尽に駆け回るピカチュウの残像?走馬灯のように目の前に高速で景色が飛び交ってた?ぼやけて見えたのはそのためか?なんてね。
ここまでで2.ものがたりが終わりです。そして最後に3.くらしの展示が待っています。階段を降り、展示室へ向かってみましょう。
壺×タネボーだ!
これこそ工芸展に求めてた要素というか、もちろん今までのもすごかったけど、生活の中に溶け込むポケモンっていう理想がこういう形で現実になるところが見たかったんです!
私これ見たとき、「みがわりが あらわれた」という文言が浮かびまして、みがわり人形じゃなく壺を身代わりに出そうとしてるシチュエーション?みたいな。(余談ですが、この日のアニポケでコルサのウソッキーがみがわり使っててタイムリーだなって勝手に思ってました。)
焼き物で使われがちなこの青、みずタイプとよく合いますよね。皿としての実用性はともかく、マンタインの大きく平べったい体とこの皿、形としてはぴったりです。皿の部分を水面に見立てると水に潜ろうとする瞬間のように見えて躍動感が伝わります。テッポウオがいる部分がちょうど影になってるのも個人的にとてもすき。あくまで主役はマンタインだってわかってるテッポウオ。おそらく長い付き合いなのでしょう。
(桝本佳子『マンタイン/染付皿』)
ファイヤーがいる!
ファイヤーって翼を大きく広げた姿しか見たことがなかったように思えたんですが、この壺=タマゴから孵った瞬間を切り取ったような姿!若さと同時に神々しさが辺りに漂います。ファイヤーは春を呼ぶポケモン。孵化した瞬間に周りの草木が一斉に芽を出し、花が咲き…といった映像が浮かんできます。壺の柄にも草花が描かれてますね。伝説のポケモンのタマゴ、マナフィみたいに特別な柄なのかな。
(桝本佳子『信楽壺/ファイヤー』)
桝本さんめっちゃ作品作ってるな…。
ファイヤーがいる!(2回目)
いやすごくない?フリーザーとサンダーの姿が見えないのにファイヤー2匹もいるよ?大人気ポケモンじゃん。
でも確かに、この漆の艶めく黒に合わせようってなったとき真っ先に思い浮かぶのはフリーザーでもサンダーでもなくファイヤーだよなあ。ファイヤーの炎は上品に映える感じがします。紅葉に似た美しさがファイヤーの翼にはある。
この作品、とにかく実用性がありそうだけど勿体無くて何も入れられない気がする。
(田口義明『蒔絵棗「春を呼ぶ」』)
これ絶対エンジュシティで売ってるって!マツバさんとか持ってるよ!
黒を背景に銀と金。似合わないわけがない。銀も金も下手に使うとギラギラしすぎて安っぽく見えちゃうけどそんな心配はいりませんね。近くで見るとホウオウもルギアも彫りの細かさが異次元です。神様への信仰をそのまま形にしたような丹精込もった作品。
展示だとホウオウ右ルギア左だったけど、反対にして両者を向かい合わせた方がカッコよくない?そうでもない?そう…。
(桂盛仁『香合ルギア』『香合ホウオウ』)
今までの作品とは全く違うポップなイメージのピカチュウ柄!これそのままポケセンで売らない?
ピカチュウの柄が付いてる外側のうねうね部分は一つ一つ形が全く違うみたい。普段使いしてる食器が特別だとなんだか毎日がちょっとずつ幸せになりますよね。これポケセンで売らない?
この布、ただの布ではありません。
なんとガラルマッギョが隠れています。
「ガラルマッギョって何?」
「わかんない。でもなんか魚っぽいのいない?」
「あ、ガラルマッギョのギョって"魚"ってこと?」
(画像検索)
「「なにこいつ」」
これですよ!初見マッギョでちょっと引く感じ!私が12年前にセッカシティで味わった感覚を後ろにいたカップルはポケモン工芸展を通じて味わってるんですよ!貴重な体験!
ちなみに、マッギョを知らなかったお兄さんも横のフライゴンモチーフの作品には嬉々として反応していました。どんなポケモンも誰かの思い出。
作品としては、模様の中に自然とポケモンが紛れ込むくらしに寄り添ったデザインであり、なおかつそこに抜擢されたのが擬態するマッギョ、モチーフと表現の噛み合いが見事。この感動が何度も味わえるのがポケモン工芸展。
まさしくアジア的な華やかさと力強さを感じる模様を纏ったグラードン。この色、ゲンシカイキだよね!?模様もほのおタイプ的な下から上へ湧き上がるようなデザイン。こうして見ると、グラードンが元々持ってた赤色って金色と相性バツグンだったんだなって改めて感じます。人の手に負えないほどのパワーを吸収した姿の象徴として金色が浮かび上がるの、この作品を見た上で考えると必然だったのかも。
(植葉香澄『光火彩文グラードン』)
メガデンリュウ友禅!
この工芸展、全体的に初代と第8世代(制作時の最新世代?)のポケモンが多い印象でしたが、ここでメガデンリュウに出会えるとは!
実際に見ると感じるんですが、この帯のしっとり感とずっしり感、たまりません。隣にはメリープモココがデザインされた着物もあります。セットコーデという発想、これもくらしに寄り添うことへの意識に思えます。特別な日に着たくなる。
(水橋さおり『友禅帯「閃光」』)
最後の方かなり駆け足でしたが、これにてポケモン工芸展感想記事終了です!
ポケモン公式の呼びかけに多くの作家さんが共鳴し、こんなにもすばらしい工芸展が開催される。これほんとにすごいことです。お互いが一歩踏み出して挑戦する意思を見せてくれたのだから、ファンとしては可能な限りそれを見届けてリアクションしたいところ。みんなも絶対見に行こう!
…え?もう終わってる?!?!
どうやら私がチンタラ感想書いてる間に金沢の工芸展が終わってしまったらしい。なんたること。
巡回展やるらしいよ。
アメリカ・ロサンゼルスでの巡回展が決定 | ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―
今年の7月からロサンゼルスで、そして来年には日本国内で巡回展が行われるそう。ちょっと先になりますが、今回見逃した人は巡回展に是非行こう!
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長くなりましたが、ここまで読んでくださった皆様本当にありがとうございました。拙い文章だったでしょうが少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
それでは、またの機会に…。
6月12日アップデート内容
・公式図録の紹介を追加しました。
・その他軽微な加筆修正を行いました。